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アルペンスキーと膝外傷
 近年のスキー用具の進歩は目覚ましいものがあります。ビンディングは転倒時にはずされ、けがを防ぐ仕組みになっています。スキー靴は硬いプラスチック製で足首をしっかり固定し、スキー板も滑走・回性能能が向上しました。どんな状況でもターンが容易にできるようになったため、スキーから伝達された力が直接膝に伝わるようになっています。その結果、むかし多かっ足関節捻挫(足首のねんざ)や下腿骨折(すねのlrbl)は減少しましたが、逆に膝関節捻挫(膝のねんざ)は増加しています(図1)。
 膝関節は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつないでいる関節です。関節とは、骨と骨をつないでいる体の部分で、骨が向かい合っている部分は軟骨で被われています。関節包(関節の袋)でつつまれ、関節の中は関節液で満たされています。関節包の周りには関節をしっかりと支え、安定させる働きの靭帯があります。膝関節には内側側副靭帯と外側側副靭帯の2つがあります。さらに関節の中にも、前十字靭帯と後十字靭帯の2つの靭帯があり、膝をしっかり支える構造になっています(図2)。
 膝をねんざしたときは、膝を支えているいずれかの靭帯が損傷します。スキーによる膝関節捻挫では、内側側副靭帯と前十字靭帯の損傷が多く見られます。特に、前十字靭帯損傷は年々増加の傾向にあります(図3)。一般のスキーヤーだけでなく、上級スキーヤーや競技選手にも多く発生しており、靭帯損傷が起こると膝が不安定となって、トレーニングや競技に支障をきたすうになります。
 スキーにおける前十字靭帯損傷の発生には4つのことが考えられています(図4)。

1.膝が曲がり、足が外側に向いたとき(図4a)

2.足が内側にねじられたとき(図4b)

3.膝が伸び切った状態のとき

4.膝が曲がった状態で、前ヘ力が加わったとき(図4c)

前十字靭帯損傷はころんだ時だけではなく、滑走中にも発生します。膝が内側に強く入ったときや、ジャンプの着地の際に体が後ろに残り、その体勢を保ったり、体勢を立て直そうとしたりしたときに大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)が強く働き靭帯が損傷するのです(図5)。
 初心者ではころんだ時に受傷することが多く、上級者や競技スキー選手ほど滑走中の受傷が多くなっています(図6)。長野オリンピック参加選手のなかにもこのようなけがを克服して参加している選手が大勢いることと思われます。
あるジュニアレーシングチームの調査では、ジュニア選手では滑走中の前十字靭帯損傷の発生がみられなかったのに対し、高校生女子の2名の選手に滑走中の発生が認められました。筋力の発達やそれによるスキー技術の変化が原因と考えられます。また女子選手に多く発生しているのも特徴です。

 カルガリー、アルベールビル、リレハンメルの3度のオリンピックにも参加した川端絵美選手(図7)、カルガリー、アルベールビルオリンピックに参加した山本さち子選手(図8)も前十字靭帯損傷を克服してオリンピックに参加しました。長野オリンピック参加選手のなかにもこのようなけがを克服して参加している選手が大勢いることと思われます。

 近年のスポーツ医学の進歩はめざましいものがあり、よりよい手術の仕方の開発と発達、リハビリテーション技術の進歩により手術をうけても早期に受傷前の体カレベルまで戻れるようになってきました。

 しかし、けがをしてしまうと競技復帰までかなり時間がかかり、精神的、肉体的な痛手は計り知れないものがあります。したがってけがの予防に勝るものはありません。けがを完全に予防することはできませんが、みなさん自身の対応で、ある程度けがを防ぐことは可能です。そこでスキー外傷を予防する注意点をいくつか示します。

 1)滑る前には必ずビンディング靴と板のとりつけ金具の調節を行うこと。試合の時に強く調節したまま、そのまま練習時でも使用していることが多くみうけられます。一般的に競技選手はビンディングを強く締めすぎる傾向にあります。試合でも適正値より少しきつめの程度で充分に対応できます。

2)スキー靴の裏についた土や泥を落としてぎれいにしてからスキーを履くこと。

3)体調に注意して、体調不良のときには無理をしないようにすること。

4)足の関節を柔らかくして、斜面の変化に対応できる能力を高めるようにすること。

5)重心位置を常に一定に保てるような技術を身につけること。

以上に注意して、けがのないようにスキーを楽しむようにしてください。

    
主催 : IOC 医事委員会バイオメカニクス・スポーツ生理学専門委員会
企画・構成 : 冬季スポーツ科学研究会
執筆 : 菅原 誠(松田整形外科病院)